一瞬、瞳の奥に宿った煉獄の朱には全てを灰燼に帰すほどの怒りが潜められていたが、それでも臣下は食い下がった。
「お怒りは十重承知致しております。ですが此度ばかりは聖上のお命に関ります。どうか」
「そこまで言うならお前が勝手に連れて来い」
「聖上、それは出来ぬ決まりです」
会話の間に間に女の喘ぎ声が漏れる。その嬌態に満足したのか男はするりと女を組み敷き殊更大胆な情交を臣下の前で繰り広げ始めた。
が、それで引くほど細い神経を持ち合わせていたならば聖上と呼ばれるこの男の臣下など勤まるはずもない。
「聖上、何卒お聞き届けください」
その言葉に反応は帰らなかったが、部屋に響く女の声が一段と増し細い悲鳴のような声と共に長椅子の軋みが治まった。
「期日は迫っております。七の季の間に再度おとないましょう」
一旦静まった軋み音が間をおかずに鳴り始めると臣下はこの時の説得を見送り、静かに姿を消した。
残された男は臣下が姿を消したその場所にわずかに視線をやると、忌々しげに表情を歪め次いで女に怒りをぶつけるかのような激しさで動きだした。そこにあるのは間違いなく傲慢と生理的な欲望のみであり、それ以外の感情など微塵も見つけ出すことはできなかった。
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