美しい女は早季子から特段の要望がないと見てとったのか、予め用意していたと思われる御盆をベッドの上に置き、簡易の台に仕立てて飲み物の準備を始める。
ものの数分で芳しい匂いが早季子の鼻腔に届く。
「香茶です。御声が出し辛いかと存じますので、喉を潤しください」
耳に心地よい声でそう言いながら、女は小さな杯を勧めてくる。
声が出し辛いことは早季子自身も認めていた事なので、言われるがままに杯を手に取り、薄金色の液体を喉に注げば、素晴らしい香りと心地よい温度の液体が乾ききった咥内に広がった。
「美味しい・・・」
思わずそう口にすると、女は空になった杯に再び茶を注ぐ。二杯目も飲み干した所で、ようやく早季子はこの女が誰であるのか己が知らぬ事に気付く。
「御馳走様でした。あなたは一体どなたでしょうか?」
「御身のお世話を仰せつかった者にございます」
茶の礼に続けて、率直に女に誰何してみたが、女の形良い口から返ってきた言葉は早季子が望んだものとは程遠いものである。仮にここが病院であれば看護師かと思う事も出来たのであろうが、部屋の様子、裾を引きずる女の衣装から考えてもその可能性は低い。
もしや、誰かの私邸に迎えられているのではなかろうかという考えが早季子の頭をもたげた。
「ここは何方かの御宅でしょうか?」
一瞬女の顔に感情が過った様な気がしたが、それもすぐかき消え、鈴のような声で女が繰り返す。
「後ほど、ご説明を差し上げましょう」
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